庭園日誌をご覧のみなさま、こんにちは。

スタッフの【はやし】です。

今回は、木材の腐食についてご紹介いたします。



木材の腐食


皆さんは木が腐食しているのを見たことはありますか?

お庭にある竹垣などの杭で、ぱっと見は大丈夫そうなのに抜いてみると地面の際部分が腐ってた!なんてことありますよね。

古くなると腐ってしまうという漠然としたイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?

実はそうではないんです。

お寺などの歴史ある木造建築が今でも強度を保っていることを思い出してみれば納得です。


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図① 日本最古の五重の塔をもつ法隆寺。1000年以上経った今も新材と同じ強度を保っています。


もう一つ例を挙げましょう。

ヴェネツィアはご存知でしょうか。

イタリアにある「水の都」とも呼ばれる美しい都市です。

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図② ヴェネツィアは、アドリア海の女王とも呼ばれる美しさを誇ります。


実は、ヴェネツィアは木材の上に立った都市なのです。

ヴェネツィアの歴史は5世紀ごろに遡ります。そのころの北イタリアでは、東ローマ帝国の影響力が弱くなると複数の民族に侵略されるようになりました。

侵略者に対抗するため、ヴェネツィアの人々は沿岸湖沼地帯に逃れてきました。

その際、人々はなんと海の中にたくさん木の杭を打ち込み、その上に石の板をおいて街を造ったのです!

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図③ 「水の都」ヴェネツィアの構造。(The Constructor Venice: Foundation Details of the Biggest Floating City in the Worldより。)

このように、法隆寺もヴェネツィアも古い木材によって支えられていますが、腐ることなく強度を保っています。



それにしても、これらの木材はどうして腐らないのでしょうか。



木が腐るとは?


そもそも、木が腐るとはどういうことなのでしょう。


食べ物が腐るときは、微生物やカビによって食べ物のタンパク質や澱粉といった成分が分解されますが、木材の主な成分はセルロースです。
食べ物を腐らせる微生物やカビの多くはセルロースを分解することができません

そのため、木材は他のものとくらべて腐りにくい傾向にあるのです。

しかし、菌類の中にはセルロースを分解できるものがあります。



この木材を腐らせる菌のことを、木材腐朽菌と呼びます。

この木材腐朽菌は、いろんな面白い性質を持っているのですよ。詳しく見ていきましょう!



木材腐朽菌について


木材腐朽菌とは、そもそも森林内で分解者として重要な役割を果たしているきのこの仲間のことを言います。

また、これは寄生菌と呼ばれる菌の一種でもあります。

寄生菌とは、生体分解に関与する菌のことをいいます。これは分解の対象が死物だと死物寄生、腐生といって対象を腐らせます。また、分解の対象が生きている場合には宿主に病気を引き起こすそうです。

この菌は森の中に存在すると役に立つのですが、建物や杭などにとってはやっかいな天敵となります。

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図④ 腐朽菌にも様々な種類があります。例えば木材を白く変色させる菌は白色腐朽菌と呼ばれます。なんと、シイタケもその一種です。







森の循環者、腐朽菌

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木材腐朽菌は、森林では分解者として炭素循環の役に立っています。特に最近では、木材を資源化する分解能力に期待され、その方面で研究が進んでいます。なんと、ダイオキシンなどの有害な物質も分解するという研究結果も出ているそうです。これからの地球にとって重要な役割を果たす
大切な菌なのですね。




木材腐朽菌が繁殖する条件


それでは、木材腐朽菌は元々どこに生息している菌なのでしょう。

実は、この菌は土壌に生息しています。


腐朽菌がどのようにして木材に付着するのかという経緯はまちまちです。

土壌に生息している腐朽菌から胞子が発生して木材に直接ついたり、建築などの途中で木材を土の上に置くことによってついたり、胞子がすでについている木材から別の木材へ胞子が移ってしまったり…。

目に見えにくいからこそ、防ぐのも難しいですし対策も大変です。

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図⑤ 建築途中で菌がついてしまうなんて、考えもつきませんよね!


では、木材についてしまった木材腐朽菌が生息・繁殖できる条件とはいったい何なのでしょう。

この条件が分かると、世の中の木材が何の違いで腐るか腐らないかがはっきりしてきそうですね。

木材腐朽菌が生きていくためには四大要素が必要だといわれています。四大要素とは、
水・酸素・温度・栄養です。

だから、水に触れただけで腐るというのは間違いなんですよ。

水のほかに同時に酸素、温度、栄養の4つの内ひとつでも欠けていると腐朽菌は繁殖できないということです。



そのため、木材は酸素の無い水中に浸かっている状態だと腐ることはありません
この条件を活用した腐朽への対策例があります。

現在あまり見られることは少ない光景ですが、昔から材木屋さんの多い新木場では水に丸太が良く浮かんでいました。木材を水に浮かべて保管していたのですね。

詳しくは、1967年 隅田川河口の貯木場について、公益財団法人メトロ文化財団 メトロアーカイブアルバムを参照↓

腐朽菌の性質を知ってなのか、人々は昔から木材の腐朽に対する工夫を欠かすことはなかったのです。



地中の木材


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ダムの工事などによって、昔から地面の中に埋まっている木が掘り出されることが時々あります。木材業界では、様々な条件が重なって酸素が少ない状態で地中に埋もれ、そのまま長い年月が経った木材には価値があるとされているそう。これらの木材は「埋もれ木」や、「神代○○」(ヒノキの場合、神代ヒノキなど)と呼ばれているのだとか。


では逆に、どれくらいの水で菌は繁殖するのでしょうか。

専門的には木材の水分含量が50〜100%で腐朽菌は盛んに生育するといわれています。また、反対に水分含量が15%以下では生育することができないそうです。



ここでもう一度、法隆寺とヴェネツィアについて考えてみましょう。

まず法隆寺の木材が腐らないのは、数々の修復作業を別にすると、

木材腐朽菌が繁殖するのに十分な水分がないからだと考えることができます。

実は木には調湿作用と呼ばれるものがあり、水分を含んでしまっても自分で水分を抜くことが可能です。この作用である程度は木材が朽ちずにいるという事は出来るでしょう。

しかし、雨が長い期間降り続くなど木材が定期的に濡れる環境にあると、水分を抜くことができずに腐朽菌が繁殖しやすくなります。

これを踏まえると、建築当初の風通しのいい設計や、雨が降ってもすぐ下に流れ落ちるという事が木材の水分含量を15%以下に保っているとも考えられます。

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図⑥ 菌に対抗するには、換気が必須のようですね。


またヴェネツィアに使われる杭が傷みにくい理由としては、

杭が完全に水中に打ち込まれているために、木材腐朽菌が繁殖できる条件である酸素がないからだと考えることができますね。

なんと、木の杭の耐久性は海中・泥中で少なくとも400年を超すといわれているほどなのですよ!


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図⑦ 以上のような性質もあってか、木の杭は日本でも、明治時代には構造物の基礎に多く使われてきたそうです。

木材腐朽菌が繁殖しないようにするには?


ここまで、水・酸素についての繁殖条件はわかってきました。

ではどのようにすれば木材腐朽菌が繁殖しないようにできるのでしょう。



気温についてですが、木材腐朽菌は30℃前後が最も生息に適しているため、夏場は特に注意が必要になってきます。

また、反対に菌は3℃以下の環境では生息しにくくなるそうです。

適度な湿気と温度、酸素…。これらに恵まれた日本の気候は、まさに木材腐朽菌にとっては絶好の環境かもしれませんね。



それにしても、木材についた腐朽菌を殺菌するという事はとても難しいことです。

では、木材を腐らせないためにはどのような手段が有効でしょうか。



その手段の鍵は、木材腐朽菌の繁殖に必要な最後の条件、栄養が握っています。
圧倒的に木材を腐らせないようにしようと思ったら、手段としては


  1. 薬剤を使って栄養自体を美味しくないものにする

  2. 木材自体を腐朽菌の嫌う部位から切り出す


ほかありません。

まず、薬剤ですが「防腐防蟻加圧注入剤」というものを使うことで、腐朽菌はおろか、シロアリもよせつけない木材にすることができます。これは栄養自体を腐朽菌にとって美味しくなくしてしまう優れものです。

また、腐朽菌の嫌う部位の木材としては「心材」(しんざい)があります。ここを使うことで、ある程度腐朽菌を寄せ付けることを回避できます。


心材と辺材


木には「心材」「辺材」(へんざい)と呼ばれる部分がありますが、辺材は木の年輪の外側にある部分、心材は木の年輪の内側の部分をいいます。

一般的に木は、内側から外側に向かって年輪をつくって大きくなっていきます。そのため、
成長の最中にある辺材には新しい細胞が多くあります。新鮮な細胞は腐朽菌にとっても美味です。そのため、辺材から木材を切り出すと腐朽菌の被害にあいやすくなります。また、木は反対に中心部になればなるほど古い細胞になります。そのため、古い細胞でできた栄養の無い心材の部分を木材として使うと、腐朽菌の被害にあいにくくなるのです。



以上、意外と知られていない木材の腐食のしくみについてご紹介してきました。

皆様がお住いの家、お庭の柵など、生活の中で木材が腐ってしまう問題と直面する場面は多々あります。今回の記事で少しでも腐食に興味を持っていただけると嬉しいです!

これからの記事で、木材腐朽菌が生きている木に対してどう働くのかについても取り扱っていきたいと思っておりますので、お楽しみに!







<参考・引用>

東 智則 「地中に埋設された木材の腐朽について」『林産試だより』6, 2011, p12.
亀井一郎「木材腐朽菌の機能開発-環境浄化とバイオマス変換-」『木材保存(Wood Preservation)』38 (4), 2012, pp.144-156.
亀井一郎「森の「きのこ」の特殊能力で環境問題に挑む! ~森林微生物の機能開発~」『環境報告書』国立大学法人宮崎大学 2016, pp.8-9.
西村 裕志「<総説>木に学ぶ、きのこに学ぶサイエンス」『生存圏研究』京都大学生存圏研究所 12, 2016, pp.11-18.
野澤伸一郎 藤原寅士良 「東京駅丸の内駅舎に使用された木杭の耐久性」『土木学会論文集C(地圏工学)』72,4, 2016, pp.300-309.

Tania Danieli Venice Guide Venezia.net Srl 14-19
https://www.venezia.net/venice-guide/download/guide/ENG/Venice-Guide.pdf
柴岡 弘郎. みんなのひろば 植物Q&A 「なぜ腐って倒れないのですか。」2008.5.21
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1621
無垢家具の専門店 SOLIWOOD PRODUCTS 「なぜ水中から丸太が腐らず発見されるのか?」2013.11.24
https://www.soliwood.com/blog/post_761/
IGひまわり成長記 「腐朽菌はどこからやってくるの?」2015.2.13
https://www.ig-corp.jp/blog/sunflower/2015/02/post_428.php
DUSKIN 「住宅木材に影響する「木材腐朽菌」とは?気を付けたいのはシロアリだけじゃなかった!」2020.3.5
https://www.duskin.jp/terminix/column/detail/00015/
木の里工房 木薫 「木製遊具が腐る理由は「木材腐朽菌」が木を食べるから。」2020.9.24
https://www.mokkun.co.jp/archives/2728
小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)「寄生菌」の解説
https://kotobank.jp/word/%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%8F%8C-1298024#:~:text=%E5%AF%84%E7%94%9F%E8%8F%8C%E3%81%8D%E3%81%9B%E3%81%84%E3%81%8D%E3%82%93,%E3%81%84%E3%81%84%E3%80%81%E8%85%90%E6%95%97%E7%8F%BE%E8%B1%A1%E3%82%92%E4%BC%B4%E3%81%86%E3%80%82
The Constructor “Venice: Foundation Details of the Biggest Floating City in the World”
https://theconstructor.org/case-study/venice-foundation-details/224185/
公益財団法人メトロ文化財団 メトロアーカイブアルバム
https://metroarchive.jp/pic_year/year1960/%e6%9c%a8%e5%a0%b4%ef%bc%88%e8%b2%af%e6%9c%a8%e5%a0%b4%ef%bc%89%e3%81%ae%e9%a2%a8%e6%99%af.html
小学館「デジタル大辞泉」
https://kotobank.jp/word/%E8%BE%BA%E6%9D%90-131168







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