庭園日誌をご覧のみなさま、こんにちは。
スタッフの【はやし】です。
この前古いお寺に行ったところ、生木が朽ちているのを目にしました。
神社やお寺では元気な若い木より、老いて朽ち始めた木の方がなんだかパワーをもらえるような感じがしちゃいます 。
ところで、そもそも「生きたまま腐る」というのは他の生き物では考えられない事ですよね。
生きている木が腐るというのはどういうことなのでしょうか。
腐朽病害って?

これは、ムクノキを見上げた時の写真。
京都には、亀岡の名木といわれる、
御霊神社のムクノキがあります。
なんと、その推定樹齢は800~1000年。
こんなに大きなムクノキですが、御霊神社のムクノキは幹が台風で折れたせいで樹皮が剥がれており、根元は腐朽が進んでいるのだそうです。
このように生木が朽ちていくことを、「 腐朽病害 」と呼びます。
「腐朽病害」の原因は菌類。一旦かかってしまうとその被害は蓄積していきます。 腐朽がかなり進行するとキノコが発生します。残念なことに、早期に外見から判断することは難しく、感染経路の特定もとても困難です。
キノコが見つかった頃には時すでに遅し・・・🍄
木の種類に関わらず、樹齢が高くなるほど被害を受けやすいので、文化財等の名木にとっては大きな問題です。
生木にとってこんなに大迷惑な腐朽病害ですが、どのようにしてかかってしまうのでしょう。
腐朽の原因としくみ
まずは木が腐る仕組みを見ていきます。
木を含む、植物の細胞には細胞を包む細胞壁があります。この細胞壁にはセルロース、ヘミセルロース、そしてリグニンが含まれており、これらが微生物に分解されることによって腐朽が起こります。
微生物の中でも、カビやキノコの仲間である菌類は分解力も出現の割合も大きいため、細胞壁を攻撃する主犯格といえます。
※木材の腐食については他の記事で詳しく解説しているので、是非ご覧ください!
菌類と細菌(バクテリア)の違いって?
菌類と細菌(バクテリア)と混同されがちですが、分類学上は原核生物か真核生物かという点で全く異なる生物です。
細菌は核膜に覆われた明確な核を持たない単細胞の生物(原核生物)です。
これに対し、菌類は糸状で、細胞内にDNA を持った細胞内小器官と核膜に覆われた明確な核を持つ多細胞の生物(真核生物)です。
腐ってくる部位によって呼び方が違う!
「腐朽病害」は腐朽する部位により、根株腐朽、幹腐朽、枝腐朽などに分けることができます。
中でも特に被害が大きいのが図①➁ のような根株腐朽。根株腐朽は樹木の根や幹など地面に接する地際(じぎわ)が腐朽する現象です。なんと、根株腐朽が進むと被害は幹の上部まで広がることも...!
図➂④の幹腐朽は、腐朽菌が幹についてしまった傷や枯枝などから侵入して広がり、枝から幹に被害が拡大することが多いのだそう。
また、害は心材部に出る場合(心材腐朽)と辺材部に出る場合(辺材腐朽)とがあります。菌の種類が違うと、害を受ける部位は根株か枝や幹か、心材か辺材かも変わります。

どうやって感染するの?

図は侵入経路です。また、詳しい経路は以下の通りとなっています。
①枯れ枝からの感染
②剪定痕からの感染
③外傷からの感染
④菌糸束による感染
⑤根の外傷からの感染
⑥根系の接触部からの感染
詳しくは、「座間安全・安心推進会」をチェック↓
http://zamat.genki365.net/gnkz/mypage/mypage_sheet.php?id=101762
腐朽の部位も腐朽菌によって違っていて面白いですね。しかし、腐朽菌がどこから入ってくるのかが気になるところです。
腐朽病害の感染経路は腐朽菌によって異なります。腐朽菌の侵入は地上部からと地下部からの2つのタイプがあります。また、感染方法が胞子か菌糸かによってさらに2つに分かれます。

地上部からの侵入は図③④のような幹腐朽による枝・幹への被害によくみられ、胞子による場合がほとんどです。一般的には、風などによって運ばれた胞子が寄主に到達して木部に侵入します。昆虫などの生物が菌の胞子や菌糸を運ぶこともあるようです。
木材腐朽菌は、無傷の樹木に侵入するのは困難です。中に侵入できるのは、幹や枝に外傷や枯枝、昆虫の加害の痕などがあるとき。 その部分に胞子が落ちてきて、寄主に定着するとすぐに発芽し、侵入します。 ただし、胞子の発芽には水分が不可欠。胞子が枯枝や外傷部に付着しても水分がなければ樹木の中に侵入することはできません。また、多くの腐朽菌では樹皮や木材の浸出液があると発芽が促進されてしまいます。
腐朽菌は一般に夏から秋にかけて胞子を形成・放出する種が多いのだそうです。例外的に、ツリガネタケやホウロクタケのように春から初夏にかけて胞子を放出する種、コフキタケのように春から秋まで胞子を放出する種もあります。

※ツリガネタケ。

※ホウロクタケ。
ツリガネタケ、ホウロクタケはどちらもサルノコシカケ科。

※コフキタケ。
どれも、これぞ「猿の腰掛け」!という形をしてはいますが、コフキタケは、正確にはマンネンタケ科だといわれています。

一方、図①②のような根株腐朽には、土壌中での菌糸による感染が多いといわれます。 特に、病気を発症させる性質を持つ菌はこの方法で感染することが多いので注意が必要です。
シマサルノコシカケ(南根腐病)、マツノネクチタケなどは、感染している木の根が感染していない木の根に接触している場合、そこから菌糸で感染して被害範囲を広げます。また、針葉樹の根株腐朽を起こすキンイロアナタケには病原性がありませんが、根系を通して隣接する木々に感染し、林全体にまで被害が拡大することが知られています。さらに、ナラタケの場合は 直接根系が接触していない場合でも隣接する木々に被害が拡大していきます。特に、有機物などが多い土壌、枯死根などが埋まっている土壌では被害が広がりやすいのだそうです。
根の周りの土壌に堆肥などを埋め込む場合には、周囲に土壌伝染性の病害が発生していないかを確認してから行わなければならないですね。
※ナラタケ。
根を通じて、知らないうちにアンダーグラウンドで被害が拡大している…。という事にはなりたくないものですね。
ツリガネタケを火起こしに使っていた!?

1991年、オーストリアとイタリア国境に近い渓谷の氷河から男性の遺体が見つかりました。なんと彼は約5000年前(なんとエジプト文明が生まれたころ!)の人物であることが判明し、氷漬けにされて見つかったことから、「アイスマン」という名がつけられました。アイスマンは火おこし道具や、先端が火打ち石でできた短刀を携えていたのだそう。他にも彼の腰の入れ物には、2種類のキノコが入っていました。一つはカンバタケというキノコで、白樺などの類に生えるサルノコシカケ科の堅いキノコです。これは紐に通されており、お守りのようなものだったのではないかと考えられています。
そしてもう一つが、やはりサルノコシカケ科のツリガネタケというキノコです。ツリガネタケは、主に広葉樹の枯れ木や倒木から発生する釣鐘形をした堅いキノコです。こちらは、綿状にほぐして丸められた状態で見つかりました。このキノコの肉は堅いフェルト状をしていますが、ヨーロッパでは昔から綿状にほぐした物を火口(ホクチ)として利用していたそうで、英名はtinder fungus(火口茸)と言います。学名はFomes fomentariusで、属学名のFomesはラテン語の「火口」、種小名のfomentariusは「火口を作る」という意味から付けられています。火口とは火打ち石の火花を落とすためのもので、着火するための大切な火種です。火口には着火しやすく燃えつきにくいという性質が必要ですが、その点キノコの菌糸は100分の1mm以下の太さであるためその性質にかない、火口に向いていたと考えられています。日本では、ツリガネタケ以外でもシロカイメンタケやマスタケなどを火口として利用していたようで、青森、岩手、秋田、岐阜などにはホクチ、ホクチダケといった方言名が残っているそうです。木材を腐朽させる菌の一つであるツリガネタケですが、昔から親しまれた日用品でもあったとは、意外ですね!
被害を受けやすい場所って?

腐朽病害は立地や気象などの環境因子が大きく関わっています。特に根株腐朽には立地条件による影響が大きいことが知られています。地下の水位が高くて停滞水が発生しやすい場所、凹地や斜面の下部などの場所では根株腐朽の被害が多いので要注意。また、岩石が多い土壌や硬い土壌、冬場に凍結が起こる土壌などでも被害が発生します。こういった場所では樹木の根が傷ついたり枯死したりしやすいために腐朽菌は簡単に入ってくることができ、被害も多いと考えられています。身近な例では、街路樹にも根株腐朽被害が多く発生します。これは小さな植え枡に植栽されたうえに土壌も硬く、根や地際部が傷つきやすいからだと考えられます。
逆に、腐朽菌の胞子や菌糸の成長には一定の水分が必要なので、乾燥した環境や直射日光のあたる環境では感染や腐朽が起こりにくいといわれています 。腐朽しにくい環境も知ったうえで、生木の腐朽を最小限に抑えたいところですね!
以上、不思議な腐朽病害についてご紹介しました。
お庭の生木や、公園や神社の木々など、被害を受ける可能性のある木は私たちの身の回りにたくさんあります!
今回の記事で少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。
長くなりましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
<参考・引用>
『最新・樹木医の手引き(改訂3版)』財団法人 日本緑化センター 2006年
『巨樹と花のページ』「御霊神社のムクノキ」2012年10月
http://www.tree-flower.jp/26/goryo_jinja_564/goryo_mukunoki.html
『座間安全・安心推進会』「桜を絶滅させないために」
https://zamat.genki365.net/G0000477/activity/6423.html
『NATURE PHOTO』「ツリガネタケ (Fomes fomentarius)」
https://www.naturephoto-cz.com/%E3%83%84%E3%83%AA%E3%82%AC%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%82%B1-picture_ja-15856.html
『三河の植物観察』「きのこ図鑑(ホウロクタケ)」
https://mikawanoyasou.org/kinoko/hourokutake.htm
『三河の植物観察』「きのこ図鑑(キンイロアナタケ)」
https://mikawanoyasou.org/kinoko/kiniroanatake.htm
大阪府 茨木市 ホームページ「こんなキノコを見かけたら」2016年12月
https://www.city.ibaraki.osaka.jp/kikou/kensetsu/koen/menu/koen_yugu/koen_chui/1411974961918.html
『きのこ図鑑』「ナラタケ」
https://kinoco-zukan.net/naratake.php
井本敏和「5000年の焚き火~アイスマンの火口」『日本焚火学会』
http://takibisociety.web.fc2.com/pages/report/iceman.html
荒井文彦「ツリガネタケ」『ほぼ日刊イトイ新聞』
https://www.1101.com/kinokonohanashi/120/eat.html
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