こんにちは!スタッフのフーコです。前回は紅葉のメカニズムについてご紹介しました。そして今回は、以前に実地調査をした様子をご紹介していきます🔍
前回の投稿で紹介した通り、葉の紅葉のメカニズムを加味すると、
①夜の最低気温がある程度まで下がること②日中の日射量が十分である事➂水分量が適切である事
今回の投稿では、10年前は紅葉が美しかったのに、最近はあまり見られなくなってしまったという、京都市のA神社を調査した様子をお届けします。要因を分けてそれぞれに対して調査を進めると、しっかり原因が浮かびあがってきます。皆さんも理由を推測しながらお楽しみください!
それでは、🍁紅葉調査団🍁、レッツゴー!!!!
調査方法
今回は、調査対象のA神社・同じ京都府内にあって紅葉の名所であるB神社・東北の紅葉の名所・C、関東の紅葉の名所Dのデータを比較するという方法をとりました。
まずは気温を調査しました。
1.気温
画像は4箇所の気温の時間による変化をグラフにしたものです。横軸の赤線は8℃を表しています。
この結果から、読み取れることをまとめていきます。
ー考察①ー 日最低気温:A≒B>他2ヵ所
紅葉に必要な気温の条件は『夜間の低温』である。C・Dにおいては、日最低気温が連日8℃を大きく下回っている。これは赤色色素の合成に有利な環境である。それに対しA・Bでは8℃を下回る日が少なく、夜間に比較的高い気温下に置かれている。これは色素の合成を妨げるため紅葉において望ましい環境とは言い難い。しかしながら、Aとほぼ同様の日最低気温であるBでは平均的な紅葉が見られる事から、紅葉に必要な夜間の低温はAにおいても満たされているということがわかる。ただし、極めて色鮮やかな紅葉を求める場合は日最低気温の更なる低下は必要となる。
ー考察②ー 気温が上昇している時間:他3ヵ所>A
気温が上昇している時間は、日の出から南中すぎまでの間で日照が確実にある時間帯といえる。故にこの時間が長いほどその地点における日照時間は長くなると考えられる。Aではこの時間が他3ヵ所よりほぼ短くなっている=日照時間が短い。特に同様の経緯度に位置するBと比較すると、Bより気温が上昇し始めるのが約1時間遅く、下降し始めるのが数時間早い傾向が見られる。11/13、11/18のグラフを詳しく見ると気温が上昇している時間帯のグラフの角度=気温の上がり方はほぼ同様であるにも関わらず、Aの方が早く気温が下降し始める。つまりAはBと比べて日光が当たっている時間内での光の強さに大差はないが、日照時間自体が短いということが分かる。
ー考察➂ー 日最高気温:B>A>他2ヵ所
日最高気温の高さそのものは紅葉の必要条件ではない。これは美しい紅葉を見せるC・Dにおける日最高気温がAより低いことからも判断される。ここで注目するポイントは、京都府内の同様の経緯度に位置するAとBにおいて、Bがより日最高気温が高い点である。日最高気温が高い≒日照量が多い→紅葉の条件に合致
日最低気温が低い→紅葉の条件に合致
となるため、一般的に言われるとおり寒暖差の大きさは紅葉のしやすさを示す一つの指標と言える。AとBの寒暖差の多寡は、下のグラフを見ると明瞭である。
【結論】
紅葉時期における冷え込み不足(日最低気温の上昇)は色付きの悪化の大きな原因ではない。日照時間が短くなったことが原因である可能性が高い。
2.日照
GoogleEarth日照シミュレート機能を使用し、2016/3/20・6/21・12/21各日のAとBの太陽の動きを動画にて撮影。目視にて確認し、各調査箇所の影の濃度が薄まり始める時間を「ポイントに日が当たり始める時刻(X)」、影の濃度が濃くなり始める時間を「ポイントに影が差し始める時刻(Y)」とし、(X-Y)を「日の当たっている時間」とした。(「日の当たっている時間」は厳密な日照時間とは異なる。)様々な太陽の高度の日における調査箇所周辺の影の動きを観察し、地形における問題点を考察する。
春分… 太陽の南中高度が中間的な日
夏至… 一年で最も太陽の南中高度が高い日
冬至… 一年で最も太陽の南中高度が低い日
ー考察①ー 落葉準備期間の日照
カエデ類の落葉準備期間である10月後半から約1ヶ月間は春分(9/22秋分の日と太陽の位置がほぼ同じ)と冬至の中間あたりの太陽高度となるので、天気が晴れの日の場合、A神社の日の当たっている時間は5.3時間以上7.8時間以下、Bの同値は8.55時間以上10.017時間以下の値となる。
このA神社の日の当たっている時間をBの値に近づけることができれば、色づきが改善される可能性が高い。
ー考察②ー 日照時間が短い理由は谷型の地形
このように日の当たっている時間がBより短くなる理由として、谷型の地形であることが挙げられる。各日の一日の推移を見ると明らかなように、東西どちらの方角も急な斜面に挟まれているため午前・午後ともに平地より影の差している時間が長い。
ー考察➂ー エリア内全体の照度
Aエリアから5か所をピックアップし、実際の照度を調べたところ、全般的に薄暗かった。調査中に最も大きな値を記録したA地点においても照度は6,000Lxであるが、これは平地における雨天時の照度(およそ15,000Lx)を大きく下回る。さらに、最も低い照度を記録したのは本宮に最も近いD1,D2地点であった。照度がA>D1、D2となる理由としては上の図のようにDの方が急斜面に囲まれていることが挙げられる。また、D1>D2となることについてはD2周辺に木や建物等の障害物がより多かったことが原因として考えられる。
【結論】
A神社は、平地より日の当たる時間が短い。理由は東西を急斜面に囲まれた谷型の地形だと考えられる。また境内付近はより斜面が急で障害物も多く、エリア内でも特に照度が低い。
3.土壌
続いて植物の生育に対する影響や改善方法を検討するために土壌を調査。層位区分・ 土性・ 水分状況・ 石礫土壌を、断面を直接観察することで調査する。
ー考察①ー 礫の多い層
礫が多いということは水や養分の保持力が低下している可能性があるといえる。礫が多すぎると土壌の保水性・保肥力が低下してしまう。とはいえ透水性と通気性を保つためにある程度の礫は必要なので、礫の量を3割程度にして腐植土を増やすと効果的である。特に中層と下層ににその傾向が見られまた。下層に礫が多い場合は空気を求めて根が伸長するため現状のままの方が良いと考えられる。また、土壌全体の色が比較的白く、腐植が少ないことが分かった。
考察
・・・ということで、今回の調査で重要だったところをまとめてお届けしました!
ひと通り情報が出そろったら、次は原因の考察です。一旦、全体の調査を総括して上のようにまとめていきます。10年前から変化が起こったことは何なのかに注意すると、2つのポイントが浮かびあがってきました。
考えられる原因①周辺の木々の樹高が上がった
調査箇所周辺の山々には背の高い樹木が多く植林されており、太陽光が遮られやすい。一般的に木は年に少なくとも約1mずつ成長する。これにより山の稜線も同じ分だけ上がる。つまり、山の稜線は10年間で10mも上昇していることとなる。これにより太陽光が遮断され、数年前まで順調に成長していた周辺の木々が徐々に育成不良となる。このような状況は、モミジが徐々に紅葉しなくなったというA神社の現状と符合する。さらに、調査箇所が山の谷間に位置していることも、周辺の木々の樹高が高くなった際の日照量をより低下させやすくしている。
日光を遮る障害物(ここでは木々)の高さが年々上がっていく場合、障害物との距離が近いほど日照量が低下しやすくなる。山の急な稜線に挟まれたA神社周辺は、木との距離が平地よりはるかに近いため、このように樹木が生長していった結果日照不足となりやすい。環境調査により、樹木などの障害物が日光を遮る現地の状況が確認されている。これらの障害物を取り除くことで日照量は増加すると考えられる。
原因②礫の多い下層まで根が伸びた
当該箇所の土壌は、白っぽく礫(れき)(小石)が多く、腐植(ふしょく)(土壌有機物)が少なく保水力が弱いということがわかった。ただし、この特徴は京都では多く見られるものであり、同様の特徴を見せる別の箇所で標準的な紅葉が見られたことから、土壌が色付きの変化の主な原因である可能性は低いものと予想される。しかし、成長するに従い礫の多い土壌下層まで根が伸長し、栄養不足となっている可能性が考えられる。斜面に生える樹木は、平地より根が大きく伸長しやすい。この特徴により腐植の少ない山の下層まで根が伸びた結果、栄養不足に陥る場合がある。また現在樹勢が弱まっているモミジへの対症療法として土壌改良は有効であると考えられるため、他の原因療法と併せて実施することにより、樹勢のよりよい改善が期待される。
提案
原因が絞れてスッキリしましたね!最後に、この事例に対して当社が行った提案を紹介します。
抜本的改善案
① 影の要因となる周辺の木々の剪定・樹高の切り下げ
② 周辺の木々の間伐
補助的改善案・日照
① モミジの根元に白石を敷き詰める(光の反射量を増やす)
② 日の当たらない時間(夜間を除く)に照明器具を設置する
補助的改善案・日照
① 礫の適量化
② 土壌改良材(バーク堆肥、バーミキュライトなど)の混入
③ 斜面に土留めを設置
④ 土の上に藁や木材のチップを敷く
さいごに
いかがでしたでしょうか。実際に調査してみると、思いがけない発見や、常識が覆される体験をすることがあり、面白いですよね。調査の奥深さや面白さを感じて頂けると幸いです🍁
葉っぱを色づける他の方法は・・・
前回の記事の通り、紅葉のための赤い色素は、葉に養分が過多になることによって生まれます。それなら、葉に養分を与えたら紅葉するのでは・・・?そう思ったら早速実験!砂糖水にオオカナダモを浮かべて、光を当てると色づいていくそうです。さすがに自然に色づいたカエデのような美しさは楽しめませんが、実験として楽しんでみてはいかがでしょう。