庭園日誌をご覧のみなさま、こんにちは。

スタッフの【はやし】です。



近頃よく耳にするようになった「カーボンニュートラル」や「サステナブル」。
自然を保護し、環境の声に耳を傾けることはとても大切なこと。
でも、大きなことに取り組むまえに、少し立ち止まって一緒に考えてみませんか。


ということで、今回は里地・里山環境とその生物多様性についてご紹介していきます!


人と自然とが手を取りあう豊かな地



突然ですが、皆さんはこの冒頭で始まる有名な歌を知っていますか?


うさぎ追ひし彼の山
小鮒釣つりし彼の川



そうです、高野辰之作詞・岡野貞一作曲の「故郷(ふるさと)」。誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

里地・里山の環境とは、まさにこの歌の歌詞にあらわされているような風景をさしています。
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澄んだ水が美しい里地・里山環境


具体的にはどんな場所?

「原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域です。」――環境省より。




わたしたち日本人は今まで自然環境と手を取り合って暮らしてきました。


里地・里山環境は、そうして人間と自然とが相互関係の中で生み出してきた誇りある環境です。
人々は森林の木を薪にしたり、草地の薬草を使用したり山菜を積極的に食べたりと自然と隣り合わせの生活を営んできました。

薪を拾うことで土壌の富栄養化が防がれ、木々が育ちやすくなるほか、草本や木の実の採集により自然な間引きが行われてより一層元気な植物が育つなど、人間と自然環境とはまさにお互いに助け合う関係にあったといえます。


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こんな里地・里山環境は、
樹林地・ため池・草地といった様々な環境を持つため、

  1. 生物多様性

  2. 自然資源(食材・木材など)の供給

  3. 景観の美しさ

  4. 自然との触れ合いの場景観の美しさ

  5. 文化の伝承


といった観点から実際とても重要な役割を果たしているのだそうです。
自然環境保全の点から、その生物多様性への貢献を中心に今とても注目されているんですよ。


都市化が進んでいく世の中だからこそ、里地・里山から学ぶことは多いといえます。

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里地・里山は田畑、裏山、川、原っぱなど日本人にとって「懐かしい」という感覚を呼び起こすような環境であるため、日本の「原風景」の一つともいわれています。



実はこの里地・里山、今とても深刻な現実に直面しています。
どんどんその数が減少していっているのです。


そこに生息する生き物も減ってゆき、
それにともなって日本からは生物多様性が徐々に失われていっています!


生物多様性の減少は豊かな自然環境の減少をあらわしているようでもありますね。


環境の激変が引き起こした生物多様性の減少



どうして里山・里地から生物多様性が失われるようになったのでしょう。


簡単に言うと、人間の手が入らなくなったことが原因です。
え、人間が邪魔したからではなくて、使わなくなったから?と意外に思う方もいるかもしれません。
それでも、もともと人間との相互関係の上に成り立っていた自然環境だったことを考えると、うなずけますね。


時代が下るにつれ、食べ物はスーパーマーケットで買い、暖房のために電化製品を使う…というように、便利な生活ができるようになりました。


時代のうつりかわり

生活が便利になるとともに、自然との共生は難しくなりました・・・。


人々が自然ではなく既製品に頼って生活をし始めたことで
里山の木は切られなくなり、里地の作物は活用されなくなっていきました。
そのせいで育たなくなる植物、住むことができなくなる小動物・昆虫はどんどん増えていくばかり。
こうして人の手が入らなくなったことが原因で、
現在、里地・里山の風景を見ることは非常に難しくなっています。


そもそも、里地・里山はどんなつくりになっているのでしょうか。
下の図で、奥山から里地へと続く里地・里山環境のつくりを見ることができます。
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里地・里山の構造
(私の森.jp 「里山の暮らし」参照)


奥山があって、里山へと降りていき、雑木林を抜けると草地が広がり、水田やため池が点々とした集落が広がっている…。なんだか夏休み、という言葉がぴったりな風景が思い浮かびますね。


このように、里地・里山のつくりは、里山の森林里地の水田・池の二つに大きく分けることができます。
ではそれぞれについて、生物多様性が失われた具体的な原因を見ていきましょう。


森林



原因


  • 雑木林の放置で常緑樹林へと環境が移り、森林の構造が単純化したから。

  • もとは明るかった森が鬱閉(うっぺい)することによる一部の中・大型哺乳類の生息域が拡大したから。





具体例


  1. コナラなどが巨大化した

  2. ネザサなどが過剰に茂った

  3. 落葉や落枝が積もり、土壌が富栄養化した

  4. 常緑広葉樹(シイ・カシなど)が侵入して繁殖した

  5. 繁殖力の強いモウソウチクの侵入で、モウソウチク以外の植物が枯死した




下の図で示されているように、植物は放置すると背の高い樹木が大半を占めるようになってきます。

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時間に伴う樹木の遷移
(私の森.jp 「里山の暮らし」参照)


その結果、背の高い木々に覆われた暗い森が出来上がり、木の種類や草の種類も同じようなものばかり生えるように…!

当然、草原などの明るい環境を好む植物は減ってゆき、草原そのものもなくなっていきます
植物の種類がどんどん限られていく中、それに集まったりそれを食べたりする生物もますます限られていくようになるのです。

生物の数は地上だけでなく、地下でも減っていくようになりました。土壌を豊かにしてくれる菌や土壌生物が少なくなったのです。


人の手が入らないことによって、特に日本の里山に多かったアカマツも育ちにくくなっていきました。マツは菌根菌との共生関係のなかで生きており、土壌の養分は基本すべて菌根菌を介して吸収しています。この菌根菌が存在しやすい土壌も、人間が作っていたのです。アカマツやクロマツと共生する菌根菌には有機物の多い土壌を嫌うものが多いため、人間が土の栄養となるマツの落ち葉をこまめに拾って土地の富栄養化を防ぎ、菌根菌の存在しやすい土壌を作っていたのですね。(大幸造園ブログ「海岸にはどうして松なのか?」より)
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マツタケも菌根菌の一種。アカマツと共生しているんです。
過去のブログでは、マツと菌根菌の驚くべき関係性について紹介しています!ぜひご一読くださいね✨





水田・池


続いては、水田やため池などの水辺環境を見ていきましょう。

原因


  • もとは明るく広かった水面が、放置や水路の整備による休耕田化・乾田化で高茎草原になっていき、生態系が変わったから。

  • 外来種が侵入したから。





具体例


  1. 耕作を停止した後、数年で密生した藪(ヤブ)が形成された(それにより一部の中・大型哺乳類の生息域が拡大し、他の脅威に)

  2. 田・池の面が乾燥することで草原・低木林化が進んだ(ススキ・オギ・セイタカアワダチソウなど)

  3. 用水路・ため池の管理が停止されたことで、水辺の生態系が変わった




使わなくなった水田や池を放置していると、草が生い茂り、低木に囲まれて水面には光が当たりにくくなってしまいます
光を好む植物や生物は水中からどんどん減っていき、低木を住処にできる一部の中・大型動物だけが生き残っていけるようになるのです…。こうして、本来の水田・池はメダカやカエル、水草などの野生動植物の生育に不適当な場所になっていったのです。


池と言えばトンボ。なんと、研究ではため池の配置自体がトンボの生息する区域を決定しうるとの見解もあります。多様なトンボを守るためには、トンボが移動できる範囲に、様々な環境の池がいくつもあることが重要であると分かっています。トンボという一種類の昆虫の多様性をまもるうえでも、里地・里山環境は大きく作用していたのですね。
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さて、今回のまとめです。

まとめ



  • 森林の環境・水辺の環境はグラデーションのように徐々に広がっていく里地・里山の構造を形作っているため、切っても切れない関係にある。

  • 多様な環境を有したその構造自体が全ての生態系のバランスを保っている。

  • 里地・里山環境の「明るさ」「暗さ」のバランスは生態系にとって重要。



里地・里山環境とその衰退の原因を探っていくと、学ぶことばかり。


今後の課題としては、里地・里山環境に近づけた新たな環境づくりを考えていくことが大切だといえます。
現在、生物に明るさ・暖かさを提供する「草原」の環境が圧倒的に少なくなっていることも嘆かれています。


これから積極的に注目していきたいところですね。


エコな時代だからこそ!ビオトープガーデン


私たち一人一人が里地・里山環境をうまく活かして保全していくのは遠い道のりに感じられるかもしれません。

でも、造園会社ならではの方法で自然への小さな貢献・自然から得られる大きな豊かさをご提案することはできます。


最近はビオトープガーデンと言って、里山風のお庭を好む方が増えてきました。

「ビオトープ」とは、ギリシャ語のbios(生物)とtopos(場所)が合成された語。

生物が自然な状態で生活できる生息空間」のことをさします。
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実際の里地・里山のように、その土地特有の草花を植えてみたり、
ちょっとしたため池をつくってトンボや野鳥を呼んでみたり・・・
と、楽しみは無限大です!
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自宅に小さな里地・里山空間をもち、四季折々の動植物の鼓動を身近に感じてみるのも楽しいかもしれませんね。


次回は、レンゲやシロツメクサを中心に、「草原」の環境について掘り下げていきます。

お楽しみに!


長くなりましたが、
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。



<参考・引用>

以下、環境省ホームページ 
「重要里地里山トップ」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/jyuuyousatoyama.html
「里地里山と生物多様性」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/seibutu.html
「里地里山の保全・活用」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html
環境省 「里地里山の現状と課題について」
https://www.env.go.jp/nature/satoyama/conf_pu/21_01/shiryo3.pdf
農林水産省Webサイト 「里山林の広葉樹循環利用のすすめ」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/jyunkanriyou/index.html
大阪市立大学付属植物園 「樹林型」
https://www.sci.osaka-cu.ac.jp/biol/botan/1_04_erea_files/0_04_03_b.html
私の森.jp 「里山の暮らし」
https://watashinomori.jp/study/basic_02-2.html
HORTI by Green Snap 「ビオトープとは?作り方やメダカの飼い方、育てる植物のおすすめは?」
https://horti.jp/25575
小長谷暁・小林久 「土浦市宍塚大池におけるトンボ類の分布と環境要素との関係」
http://soil.en.a.u-tokyo.ac.jp/jsidre/search/PDFs/04/0407-25.pdf
山中武彦・田中幸一・浜崎健児・岩崎亘典・David S. Sprague・中谷至伸 「ため池の配置とトンボの深い関係」「農環研ニュース」 No. 87 2010.7
http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/sinfo/publish/niaesnews/087/news08708.pdf





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