庭園日誌をご覧の皆さん、こんにちは。スタッフの【いよかん】です。
金木犀の香りがする秋がやってきました。
突然ですが「秋の七草」をご存じですか?
春の七草は七草がゆを食べる文化もあり比較的有名かと思いますが、秋の七草についてはあまり知られていないのではないでしょうか。
今回は秋の七草についてご紹介していきます!
- 秋の七草とは?
- 萩
- 尾花(すすき)
- 葛
- 撫子
- 女郎花(おみなえし)
- 藤袴
- 桔梗
秋の七草とは?
秋の七草は初秋の野に咲く7種の草花です。
その由来は奈良時代の歌人、山上憶良(やまのうえのおくら)が詠んだ歌だといわれています。
万葉集の第八巻にこんな歌が詠まれています。
- 秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花(おみなえし) また藤袴 朝貌の花
後半は「その7種の草花は萩の花、尾花(ススキ)、葛の花、女郎花(おみなえし)、袴、朝顔(桔梗)である」と詠んだ二首一組のシンプルな和歌です。
春の七草は中国から伝わった食用や薬用の植物が選ばれているのに対して、秋の七草は山や野に自生したり栽培されたりして奈良時代の人々の生活になじみのある植物が選ばれています。
ここからは秋の七草を一種類ずつ詳しく見ていきます。 ちなみに、7つの植物は「お好きな服は?」という語呂合わせで覚えることができます。
- おみなえし すすき ききょう なでしこ ふじばかま くず はぎ
萩
萩はハギ類の総称で、万葉集で詠まれている種類はヤマハギといわれています。マメ科の落葉低木で全国の山や野に自生します。
花はちょうちょ形で色は紅紫色。開花期はやや早めで夏には咲いています。
萩は万葉集に最も多く詠まれた植物で萩を詠んだ歌はなんと141首もあり、古代の人々に親しまれていました。
日当たりがよく水はけがよい場所を好み、根粒菌を持つためやせ地でも育ちます。根粒菌から土壌中の窒素を吸収するため、肥料はあまり必要ありません。
※根粒菌は、マメ科植物の根に共生して植物に窒素を供給する細菌。
寒さに強いですが、地上部の大部分は冬に枯れてしまうので地面の際まで切り詰め、翌年新しい枝を伸ばすようにします。
萩の咲き始めのころは鹿の発情期で、メスを求めてオス鹿が鳴き出すので萩は別名鹿鳴草(しかなぐさ・しかなくぐさ)や鹿妻草(しかつまぐさ)とも呼ばれます。
尾花(すすき)
すすきは日本中に分布するイネ科の多年生草本です。
十五夜のお月見には月見団子とともに供えられました。また、豊作を祈願して穂を門口に挿す風習もあります。
生活によく用いられ、
お百姓さんが農耕のために飼育する牛や馬の飼料や、茎と葉は茅葺屋根をふくのに利用されたほかほうきや炭俵の材料にもなりました。
茅葺き屋根の「かや」はすすきのこと。夏に涼しく冬には暖かい日本の気候に合った屋根で、全国の民家の屋根として使われていました。岐阜の白川郷の合掌造り民家が有名です。
しかし茅は燃えやすいので火災防止のために新築が許可されず、トタンをかぶせるようになったことから、現在では白川郷以外で茅葺き屋根の家は見られなくなりました。
栽培するときは水はけがよく日当たりの良い場所であれば、寒い土地や乾燥した土地、やせ地でも簡単に育ちます。丈夫で成長が早いので大きくなりすぎないように管理するのが大変です。
葉のふちで手を切りやすいため、触るときは気をつけてください。
葛
葛はつる性の多年草で、美しい花を咲かせる植物です。
葛の花は下から上に向かって咲き、濃い紫色で甘い香りがします。ただ万葉集では葛の花よりも葉の様子を詠んだ歌が多く、近代から花が詠まれるようになりました。
さらに、葛にはいろいろな利用方法があります。
地下につくる大きな塊根にはデンプンが蓄えられていて、そのデンプンは葛粉になります。
また、葛根には発汗、解熱作用があり葛根湯という古来からの漢方薬にもなります。
葛のつるは繊維が丈夫な葛布になり広く用いられました。
葛は繁殖力が非常に強く、世界の侵略的外来種ワースト100に選ばれています。
栽培は簡単でやせた土地でも荒地にも樹木にもつるを伸ばして成長します。土に根が数ミリでも残っていると再生して一面の葛畑になってしまうほどです。
繁殖のしすぎを防ぐには防草シートで日光を遮断すること。雑草予防、発芽予防にもなります。
隙間が少しでもあるとそこから伸びてくるので、すきまのない不浸水タイプを選びます。
根が張れないように土を固めるのも有効です。
コラム 葛粉と本葛粉の違いは?
葛湯や葛まんじゅう、葛切りなど葛粉は様々なお菓子や料理に使われています。
葛の根にふくまれるデンプンは約1.2%と貴重なもの。そのため100%葛のデンプンからとれる本葛(本葛粉)は高価です。おまけに、葛根の採取や地下深くに入り込んでいる葛根を掘るのは重労働で非常に手間がかかります。
ところで、スーパーなどで売られているものに「葛」と「本葛」2通りの表記があることをご存じですか?
一般に、葛粉は葛のデンプンにさつまいもデンプンや馬鈴薯デンプン、コーンスターチなどを混ぜたもの。それに対して、本葛は葛の根からとれたデンプンを100%使用した粉となっています。
しかし表示の明確な基準はなく、「本葛」と書いてあっても100%葛のデンプンではないことがあります。
本葛をお買い求めの際には原材料表示を確認し、原材料が葛のみの商品を選びましょう。
撫子(なでしこ)
日本に自生するナデシコは4種類ありますが、カワラナデシコが最も一般的だと言われています。
日当たりのよい草原や河原でみられ、花の色は紅色や白。草丈は30~80センチです。
花弁の先が細かく裂けて風に揺れるときれいです。美人をたたえる言葉として「なでしこ」が使われるほどのかわいらしい花です。万葉集だけでなく源氏物語や枕草子にも登場します。
ナデシコは日本の気候に慣れていて丈夫です。ただし水気がありすぎると病気や根腐れを起こしやすく、鉢植えでは表面が乾燥したら水を与え、地植えでは降雨にまかせて乾燥気味にします。
酸度は中性から弱アルカリ性がよいです。
消炎作用や利尿作用、通経作用があり薬用植物としても使われていました。
女郎花(おみなえし)
女郎花は日当たりのよい山地の草原や道端に生えます。背丈が高く60~160センチになります。
枯れると腐ったような独特のにおいがするのも特徴です。
花は黄色で小さく、枝の先に密集します。集団で咲いた時には野原一面が黄色く彩られます。
中国や朝鮮半島、モンゴルなど東アジア各地に咲きますが好んで観賞するのは日本だけのようです。
女郎花(オミナエシ)と男郎花(オトコエシ)
男郎花
「女郎花」という名前の語源には諸説ありますが、「おみな」とは女のことで、全体的に女性的な優しい感じがすることからつけられたといわれています。
これに対して男郎花
毛がほとんどない女郎花に比べて毛が多く強そうなことから男性に見立てて男郎花と名づけられました。
女郎花も根と全草が敗醤(はいしょう)と呼ばれる生薬になります。消炎、鎮痛、浄血効果があり腸炎などの腹痛、下痢、肝炎、婦人病などに用いられます。
栽培するときは、大きくなり野性の味わいが出るため地植えがおすすめです。土の質は選ばず、日当たりと水はけと風通しがよければほとんどほったらかしでも育つほど丈夫ですが、立枯病という植物の根がカビ菌に感染して枯れてしまう病気にかかることがあります。立枯病は土の水はけを良くすることや土にカニの殻を混ぜることで予防できます。
また、一度立枯病になってしまった土は消毒してから使うようにします。
藤袴
もともと中国から日本にやってきた植物です。
高さは1~2メートル。薄紫色や薄紅色の小さな花を房状に付けます。花は良い香りがします。茎や葉も、刈り取ってしばらくすると桜餅の葉のような香りがします。そのため入浴剤などにして香りを楽しまれていました。
藤袴は低地や河川の氾濫原(川の水位が高くなると水をかぶる場所)や土手に生えていました。しかし堤防や公園やゴルフ場が作られたり、高木により日光がさえぎられていたりして生息に適する環境が消え、現在ではほとんど見られなくなってしまいました。
また、藤袴は種による繁殖とクローンをつくる無性繁殖をどちらも行います。無性生殖には種子を作れない厳しい環境でも繁殖できる反面、全く同じ個体の集まりなので病気や害虫の被害が一気に広がって絶滅してしまうおそれがあります。
現在、藤袴は準絶滅危惧種に指定されています。
アサギマダラという美しいチョウは藤袴の蜜が好物です。
日当たりと風通し、水はけがよく肥沃な土地が栽培に適しています。栽培は簡単ですが、日当たりや風通しが悪いとうどん粉病になりやすいです。
背が高くなって鉢植えでは倒れやすく、地植えでは広がりやすいので適宜切り取って大きさを調整します。
桔梗
日本だけでなく、中国や朝鮮半島など東アジアでみられる植物です。
星形の青紫色の花を咲かせます。花の色や形の違う園芸品種も多くあります。
実は夏に咲き始めて初秋には咲き終わります。
「あさがお」が桔梗とされているわけ
みなさんの中には「あれ、山上憶良の歌には朝貌とあったのにどうして桔梗なんだろう?」と思われた方もいるかもしれません。
実は、この歌の「朝貌」の解釈にはいくつかの説があります。朝顔説、桔梗説、むくげ説です。
説のもととなった和歌があります。
朝顔は朝露負ひて咲くといえど夕陰にこそ咲きまされり
現代語訳:「朝顔」は朝に咲く美しい花で夕方になるとさらに美しく咲いている
桔梗以外の二つは夕方までにしぼんでしまうこと、万葉集の時代にはまだ日本になかったことや栽培用の植物で自生しないことから有力でないとされています。
また、桔梗があさがおと呼ばれていたとわかる史料があることから、桔梗説が一般的になっています。
桔梗は薬用や食用にもされていました。桔梗の根には去痰、鎮静・鎮痛、解熱、血圧降下作用があるそうです。
若芽や根を食べることができ、茹でて和えたり汁物に入れたりする食べ方があります。
栽培は日当たりと水はけのよい肥沃な土地で。秋に市販の種をまき、春に移植して植え付けると6~7月に開花します。移植するときに根を傷つけないように気を付けます。
桔梗もまた生息地の減少で絶滅の危険が高まっています。
おわりに
秋の七草、いかがでしたか?
派手な美しさはなくてもひかえめでかわいらしい花を咲かせる植物が多いですね。
どれも日当たりや水はけ、風通しのよいところなら育ちやすく丈夫です。
残念ながら今では7種すべてを野生で見かけることは少なくなってしまいましたが、日本の秋を感じる植物としてぜひお庭で育ててみてください!
長くなりましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました!
「秋の七草」 有岡利幸
「野草・雑草観察図鑑」 岩瀬徹
「雑草社会がつくる日本らしい自然」 根本正之
植物図鑑と植物Q&A - エバーグリーンhttps://love-evergreen.com/
BOTANICA | 植物・ガーデニング情報のウェブマガジン https://botanica-media.jp/
花と緑の図鑑-Garden vision https://garden-vision.net/index.html
秋の七草を詠んだ山上憶良の万葉集の歌をご紹介 https://canij.com/16051/
くず粉とは?原料や用途、代用品、片栗粉・本葛との違いを解説 https://fily.jp/articles/1857
【葛除草】ツルが厄介なクズ|根こそぎ駆除する方法と予防法を紹介!https://kusakari-otasuketai.com/column/20191114/
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