
庭園日誌をご覧の皆様、こんにちは!
スタッフの【はやし】です。
庭木を扱ったことのある方なら、必ず疑問に思うのが剪定の方法でしょう。
今回は、そんな剪定の中でも、強剪定についてのQ&Aを見ていくことで、基本をマスターしていきます!
強剪定とは、一度に多くの枝芽を剪定することです。このような剪定は、樹木の光合成や健全性にとても影響すると言われています。
早速、それにまつわるQ&Aを見ていきましょう!
夏の強剪定
Q1. なぜ夏に強く剪定すると枯れてしまうの?
A1. 剪定の適期は基本的に冬だから。
夏は光合成によりエネルギーを貯蓄しなければならない時期です。そのため、強く剪定すると樹勢が衰えます。夏の剪定は、樹木の栄養源である緑葉の切除であり、樹木の健康と生理を損ねてしまうのです。
A1.への解説: 剪定の時期と要点
剪定は、生命体である樹体の一部を切断する行為であるため、その時期は、樹体に最も負担のすくない時期におこなうことが大前提です。剪定の目的は、対象とする空間とバランスのとれた樹形を作ることにあるため、樹齢や樹形の乱れ具合などにあわせて適切な剪定を行うことが重要となります。
季節を通した木の様子

春:萌芽・伸長の時期。
温帯性の樹木の芽は活動し始め、徐々に展開して新しい枝として伸長します。晩春は、常緑樹の新旧の葉の入れ替わる時期で、このころに古葉が盛んに落葉します。
夏:緑量が最大に。
盛夏を迎える前に、若葉は成葉となります。新しい枝も充実し生長は緩慢となり、気温が30度を超すと、生長はほとんど休止状態となります。立秋前の土用の時期に発芽、伸長する芽を「土用芽」あるいは「夏芽」といい、晩春の剪定や、病気・害虫の刺激などによって発生することが多いのだそうです。
秋:寒さに向かう時期。
生長力は弱まり、落葉樹は葉にためた養分を樹体に蓄積する時期です。活動が停止すると、葉の緑葉素は失われ、紅や黄の色素が際立つ紅葉の時期となります。常緑樹は充実して、緩い生長の期間に入ります。
冬:休止の時期。
落葉樹の葉は、落葉するか枯死したまま枝につき、休眠期に入ります。常緑樹の生長もごく緩慢となり、紅葉するものもあるのです。
剪定に適した時期
一般的に、
落葉樹は11月~3月までの休眠期、
常緑樹は3月~4月までの休眠状態
の時が強剪定の適期といわれています。
特に寒さに弱い樹種などについては個別の適期を選ぶこともあるのですが、街路樹などの剪定の基本は冬季剪定です。落葉樹はダメージを最小限度に止めるために休眠している晩秋~早春に至る冬期間におこない、枝のバランスをみながら樹木全体の骨格をつくります。寒さに強い常緑針葉樹の枝抜きや軽い切りつめも冬期が適期です。特に樹形再生などのように強く切り詰める場合は、樹木の負担の少ないこの時期におこないます。ただし、寒さに弱い暖地性の樹種の中には、切り口から枯れ下がるものもあるので、その場合は時期を寒さの緩む後半にずらすようにしましょう。花を観賞する種については、花芽の分化期を考慮して慎重におこなうことが重要です。
剪定に適していない時期
剪定に適していない時期は一般的に、
新緑の展開期・夏期・秋早い時期・耐寒力の小さい常緑広葉樹の厳寒期・花芽分化後
であると言われています。
落葉樹、常緑樹に限らず、若葉の展開には多くのエネルギーが必要です。もしその間に剪定を行うと、樹木は改めて不定芽を展開し、再び新しい葉を伸ばさなくてはならず、仮にこれを数度繰り返せば枯死してしまうほどです。冬期剪定の遅れは、樹体の衰弱を招くので原則的に避けましょう。
栄養源である枝葉の切除の量は全体の1/3以下とし、できるだけ樹木への負担を軽くすることが重要です。特に春から秋にかけて葉を茂らせて栄養分を蓄える落葉樹の「夏季剪定」は、樹体にとって大きなダメージとなるため、強い冬季剪定による樹幹の乱れのひどいものや枝葉の生長が特に旺盛な樹木に限ってごく弱めに行うのが原則です。この時期の剪定は、樹木の栄養源である緑葉の切除であり、樹木の健康と生理を著しく損ねます。また、本来街路樹に期待される、夏の緑陰、CO2削減、都市の冷却などの機能の発揮とも相反する行為であると言われています。
この時期の枝葉の切除は、夏の間に葉にためた栄養分を樹体に蓄積できないうえに、秋の再萌芽を余儀なくされ、不時に展開した若葉はそのまま冬を迎えすぐに枯死することになります。
暖地性である常緑広葉樹は、冬期間も葉をつけ生命活動を続けています。そのため、特に厳寒期の剪定は、切断面が寒さにさらされ、そこから枯れこむ危険性が大きいと言われています。
花木の冬期剪定を行う場合は、軽度な枝抜き剪定程度にとどめましょう。
切る箇所
Q2. どこかを切ると他の箇所も短くしなければならないの?
A2. 基本的に要らない枝のみ切る。
A2.への解説: 樹勢のバランス

樹木の生理的な健全さは「樹勢」という用語で測ります。衰退度は枝葉量で測ることができます。光合成を盛んに行っており、防御物質を生産する能力が高い樹木は病害虫に対する抵抗性が高いのです。そのような樹木は、糖などの蓄積も多いのでストレスに対する抵抗性も高く、環境の変化にも比較的適応しやすいのだとか。枝葉の密度は光合成の能力も示すので重要。葉は光合成をおこなって生活に必要な物質を生産する器官であり、葉量の多さは活力状態を良く表します。また、葉が蒸散することで蒸散引力が生じて植物体内に水の移動が起きます。蒸散の重要な役割として、主に葉裏にある気孔から水を蒸発させることで、葉面や植物体を冷やすことがあります。そのため、樹勢を考えた、バランスの良い剪定が重要だと言えるでしょう。
A2.への解説: 不要な枝とはどんな枝?
忌み枝や不要枝(ふようし)と呼ばれる不要な枝を切る剪定を透かし剪定といいます。間引き剪定と呼ばれることも。不要な枝は再び生えてこないよう付け根部分から切り落とします。枝分かれした枝の一方だけを切る場合は、できるだけ分岐箇所に近いところで切ることがポイントです!
剪定位置
→青色の切除位置で切るのがベスト。

不要な枝一覧
【ふところ枝】
幹の近くで短く伸びた枝。風通しが悪くなり、病害虫発生の原因となるおそれがある。
【交差枝】
他の枝と交差するように伸びた枝。日当たりや風通しを悪くする。
【からみ枝】
一方向に伸びるはずの枝が、他の主枝にからむようにして伸びている枝。日当たりや風通しを悪くする。
【徒長枝】
上方向に長く伸びる枝。樹形を乱すうえ、勢いよく伸びるため他の枝に栄養が行かなくなることもある。風の抵抗を受けやすく、折れやすくもある。
【逆さ枝】
枝先から幹方向に向かって伸び、樹形を乱す。
【平行枝】
他の枝と同じ方向に伸びる枝。上にある枝にさえぎられて下の枝に日光が当たりにくくなったり、樹形のバランスが悪くなったりする。
【下がり枝】
下方向へ伸びて樹形を乱す。折れやすい。
【胴吹き枝】
幹の途中から芽吹いた枝。放置すると樹形が乱れ、根から吸い上げた栄養が幹の上まで回りにくくなる。
【ヤゴ(ひこばえ)】
木の足元部分から伸びる枝。放置すると樹形が乱れ、根から吸い上げた栄養が幹の上まで回りにくくなる。
樹勢について
Q3. どうして片側だけ強く切ると弱ってしまうの?
A3. 木の枝の独立採算性・水の運搬・腐朽菌に由来する理由が考えられます。
一つ目には、木の枝は基本的に独立採算性だからという理由が考えられます。一つの枝からもう一つの枝に栄養が行くことはほとんどありません。切ってから回復するか否かは、切った枝にどのくらいの養分が蓄えられていたかによるのです。切った枝にほとんど枝葉がついていなかった場合、その枝には養分が蓄えられていません。つまり切ると回復するだけの力が残っていないために枯れてしまうのです。
次に考えられる理由は、剪定することで一方の枝から空気が入り、水の運搬が途切れてしまうということです。
最後の可能性としては、腐朽菌の侵入です。強剪定は太枝を切ることが増えるため、切り口から腐朽菌が侵入する危険性も高いです。幹へ腐朽が進んだ場合、その内部は空洞化していき、風などの外力に対する耐力が弱まるため、倒木の危険性が高まるのです。
A3.への解説: 枝は独立採算性
葉でつくられた糖は、枝から別の枝に流れることは基本的にありません。枝はその枝の葉でつくられる糖で生きています。枝でつくられた糖は、新葉が展開するときや花、果実を充実させるときには上の方に流れることがありますが、その距離はあまり長くありません。基本的には、その枝から下の幹や根に運ばれ、幹や根のエネルギー源となります。そのため大きな枝をたくさん切り落とすと、たくさんの根が傷みます。
長く伸びて枝先に少しの葉しかついていない枝を強く切り戻した場合、残された部分の休眠芽が芽吹かず枯れることがあります。これは残された枝の部分のエネルギーの貯蔵が少ないからです。枝は独立採算性で、枝に糖の貯えがないと休眠芽も伸びることができません。
樹木にとって「枝葉」はエネルギーを生産(光合成)してくれる重要な部分です。これを減らして光合成能力や蒸散量を減らすと木を弱らせ、かえって病害虫に対する抵抗性を低下させる可能性があります。剪定を両方均等に行い、見た目には新たな枝が萌芽してきて健康に見えても、それは決して樹勢が強くなったのではなく、葉の減少に危機感を持った樹木が樹体内の「貯え」を使って慌てて葉を出している姿です(図)。それが強剪定であれば根の先端から徐々に枯死する可能性も大きいです。強剪定により一度に大量の枝芽が落とされると、樹木は光合成不足を補うために根や幹に貯めた養分を使って、潜伏芽(樹木に埋もれている休眠芽)や、被覆組織(いわゆるカルス)からの不定芽を大量に萌芽します。しかし、その新しく萌芽した枝葉が十分に生長して光合成産物、つまり栄養を幹や根まで行き渡らせるまでは時間がかかります。そのため、その間根系には光合成産物は供給されず、根元から遠く離れた根系の先端から枯死していきます。これが繰り返されると次第に樹勢が低下し、腐朽が樹木全体に進行するのです。
A3.への解説: 水の運搬
水の分子はとても強い力で結びついています。細い管の中に水が詰まっているときは、この水の柱を引きちぎるにはとても強い力が必要です。木を傷つけると、根から葉へとつながっている長く細い管に空気を入れることになります。ごくわずかでも空気が入ってしまえば、水を吸い上げる力が途切れてしまいます。サイホンは、この水分子の凝集力の原理を利用しているのだとか。細いチューブではじめだけ水を吸えば、あとは自動的に流れ出しますよね。チューブに穴が開いて空気が入ると水は流れません。生け花でも、いける前に茎を水の中で切る「水切り」を行いますが、これも水を吸い上げる組織の導管に空気を入れないためです。特に、主枝や亜主枝は養分を運ぶパイプの役割を果たします。このパイプに何らかの問題が発生すると、円滑に養分等の配分が行われず、偏った生長や、根から最も離れた主枝の先端の生長を阻害してしまいます。
A3.への解説: 腐朽

梢端の欠損は根系における側根の発生能力を著しく低下させてしまいます。幹や大枝が切断された時点の形成層の位置に強力な防御層が形成され、その内側の材は不朽が進み、徐々に空洞化が進行します。強剪定によって光合成産物の供給が止まった根系も先端から壊死し、底から根株腐朽が進行します。腐朽拡大は徐々に進行していきます。枝を切り落とす位置も重要。間違った位置で枝を切ってしまうと、そこから樹木を腐らせる「腐朽菌」が侵入し、やがて幹の中が空洞になって倒木・枯死という大きな不安を抱え込んでしまうことになります。
樹木の不朽病害については、過去に記事にまとめています。気になった方はチェック!↓
<参考・引用>
小林享夫『樹木医必携・応用編』日本樹木医会、2010年。
日本造園建設業協会『公園・緑地樹木剪定ハンドブック』2019年。
日本造園建設業協会『街路樹剪定ハンドブック』2021年。
堀大才『絵で分かる樹木の育て方』講談社、2015年。
堀大才『樹木学事典』講談社、2018年。
堀大才『図解 樹木の診断と手当て』農文協、2008年。
国立研究開発法人土木研究所 寒地土木研究所 地域景観チーム 榎本 碧 松田 泰明 増澤 諭香 「剪定強度の違いによる街路樹の生育への影響」『第65回(2021年度) 北海道開発技術研究発表会論文』
果樹栽培ナビ
お庭110番 by:生活110番 「【図解入り】庭木剪定の基本 植木の種類ごとのお手入れ方法と剪定時期」
「樹木医からのお願い・・・枝を切るのは慎重に」
↓お庭のお手入れ・改修・設計などに関するご相談はこちらから↓
-------------------------------------------
株式会社大幸造園
TEL 075-701-5631
FAX 075-723-5717
HP http://daiko-zoen.com/
-------------------------------------------